HAT神戸


HAT神戸


1.現在のHAT神戸

 HAT神戸は阪神・淡路大震災以前は、製造所、製鋼所などがあった場所であり、被災により空き地となった場所を開発した街である。

神戸市によるとこの街は『水と緑にあふれた安全で安心なまち。多くの人々が住み、働き、集い、憩う、豊かで快適な機能をあわせもつまち。「HAT神戸」は「Happy Active Town」の頭文字を組み合わせた愛称(公募)。摩耶山の南、ウォーターフロントに開ける当地区が、文字通り、ハッと変貌し、だれもが幸福で、活気あふれる街となるようにという願いが込められています。(神戸市)』とされている。

 住居部分は、ほぼ全て中高層のマンション・市営団地で構成されている。赤十字病院・国の合同庁舎・JICA・美術館など公的機関、映画館、ショッピングモール等を誘致し複合的なまちづくり構成になっている。開発当初は、アースカラーで街自体が構成されていた。しかしまちづくり協定は強制力(紳士協定)がなく、現在では大手電気店などが自社のイメージカラーで周辺環境に配慮せず建設するなど当初理想とした街づくりからは随分と後退した印象を強く感じる。景観配慮が崩れこの街の魅力がそがれる一方である。また、地方都市としては各建物のボリュームがどれも大きいまちでありヒューマンスケールを超えた街になった。



2.現在の防災対策

神戸市では現在、地震に関する防災対策として「神戸市東南海・南海地震防災対策推進計画(平成16年)」を策定している。これは、国の中央防災会議(東南海、南海地震等に関する専門調査会((平成15年))と兵庫県の津波被害研究会((平成12年))による被害想定をもとに策定した内容である。地震対策として最重視している対策であるが神戸市独自の特徴があるものではない。東日本大震災を踏まえた神戸市の計画の見直しについては、国や県などの動きを勘案するとし現時点は従前のままで具体的な改定はされていない。



3. 東南海、南海地震時のHAT神戸の被害想定について

 国の中央防災会議(東南海、南海地震等に関する専門調査会((平成15年))と兵庫県の津波被害研究会((平成12年))による東南海・南海地震の被害想定によると神戸市中央区脇浜周辺の地震震度は6強、津波は2~3メートル、1キロメールと四方における全壊建物の数は1~30棟(HAT神戸の敷地に当てはめると被害想定2~60棟相当)とされている。震災後に開発した新しい街なので新耐震が適用された建物で構成されている。街を歩いてみると新しい建物ばかりで住居はほぼ全てが鉄筋コンクリート製のマンションか市営団地であり木造住宅は無かった。倒壊までするようには思えない建物ばかりであった。揺れと倒壊数の関係は、兵庫県南部地震における西宮市のデータ、鳥取県西部地震における鳥取市のデータ、芸予地震における呉市のデータが活用され地質等の状況を考慮し補正されている。



道路(6車線)は広い歩道を備え、街を東西に結び幹線道路に接続される。街の大きさは東西約2.2km、南北約1.0km。港側(南側)は広い公園になっている。道路サイドに高層マンションが立ち並ぶが、被災時の教訓を活かし道路確保は十分なされている。敷地は、海に面しており砂質土で良いとは言えないが、以前の震災時には対岸の人工島である六甲アイランドのような液状化現象は見られなかった。護岸は当時被災したが補強工事も完了している。津波対策は特段見当たらなかった。”首藤”の手法における浸水深と被害区分との関係では木造住宅では津波が2mを越えると全壊とされているが非木造住宅は軽微とされる。全壊棟数・半壊棟数については、海岸線等に接している1km メッシュからのみ発生するものとして現在の対策は考えられている。内陸部における浸水では、流速が弱まっているものと考え、家屋は破壊には至らないものとして対策がつくられているが平成23年に発生した東日本大震災の被害を見るにあたり内陸部への被害想定の見直しも今後進めるべきものではないかと思える。

4.HAT神戸における地震災害の対策に対する考察

 神戸市の地震対策は東南海、南海地震に対しての対策を重視され、その発生メカニズムからいつ起こってもおかしくないと記されている。これらの資料を見ると東南海、南海地震を重視するのは理解できるが、「これが東南海でこちらが南海」と人間が名前をつけているだけのことで、京都大学防災研究所のHPによると毎日のように小さな振動が起こっており広範囲なプレート活動と表層断層への影響など多面的な予測がされている。連動することは当然のことにも思え範囲を限定するのはどうかと疑問である。対策予測を限定した方が管理しやすいとは思うが、並列的にいくつかの災害が起こる想定の選択肢を出すべきではないか。



 東南海、南海地震の対策には、大きく分けて揺れによる倒壊、津波の二つで整理されている。津波に関しての整理や対策は倒壊に対しての考慮に比べてそれほどの対策項目はない。気象庁の資料によると神戸市海岸部は最短80分で2mの津波とされている。今年の東日本大震災の状況考査を踏まえて内陸部への影響など再考すべき点は至急組み込んで欲しい点だといえる。また、国の合同庁舎(防災合同庁舎)があるがこの建物は免震構造で太陽光発電・自家発電設備を備え、海水を真水に変換する装置も備えていた。気象台・自衛隊も入居しており緊急時の情報収集拠点の一つであった。配置は海側に面した場所である。神戸は六甲山と大阪湾の間の狭い地域であり、以前の震災では道路インフラ切断により初期の調査や支援は船で海から接岸して入ったことから、海側にあることもやむ得ないことなのかもしれないが緊急時に適正に機能して欲しい点でもある。



 住居部分は、自治会が機能している地域と言えないので建物に対しては高層住宅の特徴を踏まえた対策について各管理組合を通じて実施する必要がある地域といえる。また震災を活かした枠組みとしての兵庫県住宅共済制度(フェニックス共済:兵庫県企画県民部防災企画局復興支援課)の周知も必要と思えた。この共済は被災後の住宅再建への有効な制度であるように思えたので是非全国的にも広がって欲しいものだと思う。住宅については、新しい建物ばかりであるが、神戸市では旧耐震(昭和56年建築基準法改正前)の建物に対して戸建・マンションを問わず無料で耐震診断が受けられる制度「住まいの耐震診断員派遣事業」があった。建築的に適正な対策を行うためにも先ずは自分の家を正しく知ることが重要なのでこちらも周知が必要と思える事業である。



 この街は日本によくある住宅密集地とは違い、新しく出来た街である。この様な新しい基準でつくられた街に大型地震が襲った例は少ないようだ。十分な避難路となる道路がバリアフリーで整備され建物倒壊、火災、避難共に住宅密集地より危険度が低いとはいえるが住宅密集地同様に建物である限り、災害時の建物被害の影響を排除することは出来ないといえる。



 最後に、私がこの街を見て感じた点を記したい。海があり、反対側には六甲山が見え、歩道には街路樹、公園とある。また、大型病院があり、映画館、複合商業施設もある。

しかしながら、なんとも人工的な無機質さを感じる街である。広すぎる道路も人が住む街には違和感が強い。私は住みたいとは全く思わなかった。思い出せば、職場としても良い環境とは思わなかった。兵庫県内では三ノ宮や芦屋で勤務したが両方に比べても劣るように思える。関西であれば京都市内(京都御苑周辺)での勤務が、都市の中に安全な自然環境を身近に触れながら過ごせて一番安心感があった。

京都市左京区と比較するとHAT神戸は防災対策を第一として整備した街。防災という1面的機能を重視しすぎたように感じる。公園であれば、一番良い公園をつくりそこに防災機能を配慮して備えた公園が良い。防災を最重視につくった公園では日々の使用勝手に劣る公園に感じる。通行量が少ないところに必要以上に広い道路を車両通行のためだけに使用していると日々の生活や雰囲気に違和感がある。車両道路を狭めて公園兼歩道にしたら良いのにと思う。都市計画が防災機能第一では人間の住む街なのかと違和感がある。これでは住宅密集地に比べて人が住む空間としての魅力に負けていると感じる。

震災後のまちづくりガイドラインには防災第一かつ早くルール化する必要があることは理解出来るが、是非多面的な配慮を取り入れそれぞれに優先順位をつけず景観配慮を義務付け、安全・安心だけでなく、復興には、活気があり、心の休息が出来るまちづくりのルールの制定を行い建築設計者に最適解を求める姿勢が必要だと強く思う。