読書メモ 『壁の向こうの学校』
◆安 心治(二〇一二)『壁の向こうの学校』文藝書房
P238「この地は我欲と我欲がつばぜり合いをしている世界なのだ。結局我欲の強い者が支配し、弱い者は保身のために強い者に服従する。我々は互いに信じようとせず、疑いの目で警戒し合う。互いに相容れず周りに溝をめぐらしている。互いの交渉が希薄なのである。何よりも人々は自分から対立を生まず、敵をつくらないことに細心の注意を払うのである。また逆に相手側からそうされないように細心の注意を払うのである。」
P238「劣化していく人間たち。その人間たちが教育を担い、次の世代の人間たちを社会に出していく。」
P244「お互いに信頼し合うということは、思っている以上に簡単なことではない。今の人々は人間関係で、できる限り傷がつかないように振る舞う。それは自然と深い関係を結ぶことができず、お互いに疑心暗鬼の眼で視ている。相手を信用できず、何をしてくるか予測がつかないので絶えず防御の姿勢を取らざるを得ない。こういう関係では互いに信頼関係を結ぶことは困難であろう。傷つくのを避けることは信頼関係を放棄することではないだろうか。」
「この国の教育ははたして次の世代の人間を育てていこうとする意識も展望も持ち合わせているだろうか。次世代にかける信頼もなく、ただ己の権勢慾で働いている教育行政者たち、己の地位保全のために盲目的に追従している現場の人間たち。」
P247「教員が何もかもできると考えるのは間違いである。生徒たちの運命を支配できると考えるのは傲慢である。教員ができることは生徒の未来に向かって歩んでいくのに手を貸すだけのことではないか。せいぜい彼らの背をおしてやるぐらいのものだ。しかしながらまるで作用反作用のように、生徒の背をおしてやればその反動を受け、教員自身の背も押されるように感じ、そこから何か勇気のようなものをもらうことができるのではないだろうか。彼らも私にとって支えになる人間たちであることは間違いのないことだ。」
「信頼関係を築くというのは忍耐を要することだ。人はどうしても偏見を持ってしか人を見ることができなようだから。互いに信頼し合い、互いの価値観を重んずることができれば、人間としての誇りを持って生きることができるのではないだろうか。そのための基本的能力として、想像力が必要なのではないだろうか。」